「音楽の力って、素晴らしい!!」 2005.4.28
「認知症」という病名をご存知ですか。例えば、私の母は、現在特養ホームにいますが、 見舞いに行くと、「あら、きよちゃんね、」と、ニコニコ顔で話し掛ける事もあれば、私の顔を見て「マァー、あんた5,6年まえに死んだ筈なのに、何処に行っていたの?」14年前に亡くなった親父と間違えているのが判ったので、「あの世に言って極楽で、お前を待って居ったのに、何時まで待っても来ないから迎えに来たんじゃ」と言うと、ジーっと私の顔を見て、「ナーンだ、きよちゃんか?」よく考えたら、親父殿はそのような冗談は、絶対言わない人だった。其処で我に返った訳ですが、以前は「老齢の呆け」と言っていたのを、現在は「認知症」と言い換えただけの事です。
現在、私の「C.A.M音楽研究所」にレッスンを受けに来ている中で、一番高齢者が個人タクシーの運転士をしている杉山信さんです。なかなか演歌の作詞の才能があって、わが教室に通うきっかけとなった「個人タクシー夫婦道(めおとみち)」のように、着想が中々面白い人です。「個人タクシー夫婦道」は、作詞の手直しをして私が作曲し、メンバーに打ち込みをしてもらって、田村剛志OPにレコーディングしてもらい、カセットテープを制作発売したところ、凄く評判が良く、売り切れてしまったほどです。
その後定期的にレッスンに通ってますが、岡山県の田舎の町にある「特養老人ホーム」にお母さんがいて、この2,3年「認知症」が酷く、親孝行な彼は、毎月見舞いに岡山の田舎まで車で出かけて行くのですが、全然、顔も見ようとしないし、勿論、言葉をかけても無反応で、「一度で良いから、笑ったり、話をしてくれないかなー」と言ってました。
「じや、その気持ちを詩にしてご覧よ」と言うと、何度か詩にしてきました。
私は自分自身の母親のことと重ね合わせながら、その詩を整えていきました。やっと、気に入った詩になったので、演歌風の曲をつけました。
杉山信さんに、歌の練習を半年ほど続けると、なかなか歌らしくなってきたので、田村OPに録音してもらい、杉山信さんは特養ホームにテープ持って行きました。
杉山さんがお母さんの部屋に入って、「お母さん」と声を掛けても、相変わらずの無反応 ぶりに、がっかりしながらテープをかけたら、なんと奇跡が起きたのだそうです。
ニッコリ笑っただけでなく「『信、信じゃないのか?』と確かに唇が動いた」介護士さんも吃驚、「え?杉山さん判ったの?」『それからは、ニコニコと微笑むだけでしたが、確かに反応を示した』というのでした。
杉山さんは、そのテープを特養ホームに預けて帰りました。それから一月経ちました。
見舞いに行くと以前とは全然違ってきたそうです。なんと無反応だったお母さんが、はっきり意思を伝えるようになり、表情もすっかり変わって来たそうです。
4月22日のレッスンの時、杉山さんは「ホームから電話で『テープが擦り切れてきたので、音が悪くなった』と言ってきました。テープのコピーをお願いします」と言ってきました。
「テープだと音質が悪くなるからCDにして上げよう」と、吉川マネージャーさんは、直ぐにコピーして、「これをお母さんの所に持って行って上げてください」と渡しました。
最近、「音楽テラピー」が話題になってますが、こんなに重症の『認知症患者』にも劇的に効果があることに、作曲家として音楽の偉大さを改めて感じました。
「特養ホームのお母さん」
杉山 信 原詩 すずききよし 作詞・作曲 1 今日こそあなたの 優しい笑顔 見せてください お母さん 特養ホームの ベッドの傍に 腰を折り曲げ 見つめてみても 母の瞳は 母の瞳は 虚ろなままよ
2 「強く優しい おとなになれ」と
教えてくれた お母さん
特養ホーの お花見会に
今年も一緒に 行きましょうね
母の笑顔が 母の笑顔が 甦るように
3 (間奏)
この世に生きて 生き永らえて
いてくれるだけで 嬉しいんだ
母の命よ 母の命よ 何時何時までも